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第23話 甘さだけを残して、彼は帰っていった

ผู้เขียน: 悠・A・ロッサ
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-15 18:49:28

 玄関のドアが静かに閉まる。

 外の冷たい空気が断たれ、部屋の温度が急に近くなる。

 Dはコートを脱ぎながら、

 部屋の中をひとつひとつ確かめるように見渡した。

 そして、私の方へ向き直る。

「朱音。ひとつだけ、確認したいことがあるの」

 いつもの柔らかい声。

 なのに、逃げ場がないくらい真っ直ぐだった。

「あなたが——復讐をやめると決めたのなら」

 そこで一歩近づく。

 息が触れる距離。

「……私と、一緒に生きてみない?」

 告白より静かで、

 求婚より甘くて、

 選択より重い言葉だった。

(……Dと、生きる?)

 一瞬だけ、胸がふっと軽くなる。

 気づきたくなかった感情が、静かに顔を出した。

(でも——)

(彼と一緒にいる私は……いつも心地いい)

(もし、ずっと隣で過ごせるなら……)

 その想像が、

 ひどく甘くて、

 同時に、なぜか胸の奥を少し刺した。

「復讐を手放すあなたの未来に、

 私が必要だと思うの。

 あなたの力になれるのは、きっと私よ」

 そう言うDの目は

 本気で、迷いがなくて、

 私の人生そのものをまっすぐ掴みに来ていた。

(……そんなの、反則でしょ)

 胸が、ひどく熱くなる。

 Dが一歩近づいた。

 その瞬間、廊下の蛍光灯がわずかに揺れ、

 白い光が彼の横顔のラインだけを切り取った。

 頬の骨格の鋭さ、喉仏の影、長い睫毛の落とす影がゆっくりと揺れる。

 ──美しいという言葉では足りなかった。

「朱音。

 ねぇ……こっちを見て?」

 その声に、喉がひくりと鳴った。

 殺気みたいに鋭いのに、

 触れられたら壊される気がして——

 でも、離れたら二度と戻れないような気もした。

(だめ……今、これ以上近づいたら)

 ほんの一瞬、後ろへ体が引きかける。

 でも、Dは追わない。

 ただ待つ。

 私のためらいごと受け止めるみたいに。

「怖い?」

 甘さと静けさが混じった声。

 私は答えられなかった。

 怖い——

 でも、それ以上に惹かれてしまっている自分が、もっと怖かった。

 Dの手がゆっくりと伸び、

 けれど触れる直前でまた止まる。

 その距離が、逆に私の胸を締めつけた。

「……逃げたいなら、逃がしてあげるわよ」

 優しい言葉なのに、

 なぜか足が動かない。

 呼吸すらできない。

(……逃げたくない)

 自分でも驚くほど静かに、

 その想いだけが胸の奥に
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